【遺伝子工学】生体内ゲノム編集の新技術を開発 非分裂細胞に有効な遺伝子ノックイン法『HITI』/理化学研究所など 


生体内ゲノム編集の新技術を開発
-非分裂細胞に有効な遺伝子ノックイン法『HITI』-

1970年代から“生命の設計図”と呼ばれるゲノム配列を操作することにより、遺伝子機能を解析する試みが行われてきました。
近年では、ゲノム配列をデザイン・改変する操作を「ゲノム編集」技術と呼び、基礎生物学に必須な技術として用いられています。
ゲノム編集技術がさらに発展すると、医療・食品・エネルギーなどの分野に多大な利益をもたらすため、“次世代のバイオテクノロジー”として大きな関心を集めています。

ところが従来法は、細胞が活発に分裂する最中に起こる相同組換え修復(傷ついたDNAを修復する機構の一種)の仕組みを利用してゲノム上の任意の場所に目的の遺伝子を挿入していました。
そのため、皮膚の表皮細胞や腸の上皮細胞などを除くほとんどの生体内の細胞、特に神経細胞や心筋細胞などの細胞分裂をしていない細胞には、この技術を適用することはできませんでした。

そこで、理研を含む国際共同研究グループは、非分裂細胞内でも活性を持つ別のDNA修復機構を利用したゲノム改変技術を開発し、「HITI(ヒティ)」と名付けました。
まず、ヒトの培養分裂細胞でHITI技術を試してみると、従来法より約10倍高い効率で遺伝子挿入ができました。
続いて、マウス胎児由来の培養神経細胞(非分裂細胞)でHITI技術を用いると、高効率(遺伝子導入された細胞当たり最大60%)で目的部位に遺伝子が挿入され、生きたマウスの胎児脳でも同様に成功しました。
さらに、生体内での遺伝子導入に優れたアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、HITIシステムを細胞内に直接導入する「HITI-AAV」を作製しました。
これを生きたマウスへ局所注射することで、脳の一部など組織・器官の目的部位のみに遺伝子挿入することができました(図参照)。
また、HITI-AAVを静脈注射で投与することにより、心臓、肝臓、筋肉など全身の組織・器官で標的配列を3~10%の細胞で改変できることを確認しました。

さらに、生後3週齢の網膜色素変性症ラットの網膜下にHITI-AAVを直接投与したところ、視覚障害を一部回復することに成功しました。
網膜色素変性症とは、網膜の視細胞の変性により徐々に視野が狭くなり、視力を失うこともある進行性の遺伝病です。
今後、HITI技術は成人の神経、筋肉、網膜などの終末分化細胞に異常のあるさまざま難治性遺伝病に対し、その原因となる異常遺伝子を病変部位で直接修復する医療への応用が期待できます。

▽引用元:理化学研究所 60秒でわかるプレスリリース 2016年11月17日
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20161117_1/digest/

報道発表資料
http://www.riken.jp/pr/press/2016/20161117_1/