【インドネシア】ドゥテルテ氏の隣国に中国系“暴言王”?…インドネシアの州知事と抗議デモの過激な対立[11/20]


 政治家にとって失言は命取りだが、暴言は時として人気を博す。この人の場合は、どちらに転ぶのだろうか。神をも恐れぬドゥテルテ大統領が君臨するフィリピンの隣国、インドネシアで、ある中国系知事の発言が波紋を呼んでいる。多数派のイスラム教徒を侮辱したとして、大規模な抗議デモが起きたのだ。少数派のキリスト教徒でジョコ大統領の側近という当人の立場が、事態を深刻にしている。

「コーランに惑わされているから…」

 「アラー・アクバル(神は偉大なり)」「知事に死刑執行を」。11月4日、首都ジャカルタが抗議デモの参加者約4万5千人で埋め尽くされた。

 やり玉に挙がったのが、ジャカルタ特別州知事のバスキ・プルナマ氏。華人(中国系住民)であり、「アホック(阿学)」という愛称で呼ばれることも多い。インドネシアでは少数派のキリスト教徒でもある。

 現地からの報道によると、事の発端は今年9月の演説。バスキ氏は、イスラム教の聖典であるコーランの一節に触れ、こう発言した。

 「コーランに惑わされているから、あなたたちは私に投票できない」

 バスキ氏は、ジョコ大統領が知事時代に副知事を務めていた側近。ジョコ氏の大統領就任に伴い、2014年に知事に昇格した。知事候補としては初となる来年2月の選挙で「再任」を目指している。

 ところが、国民の約9割を占めるイスラム教徒を挑発するかのような発言をしてしまったのだ。

デモ主催団体、ガガさんの公演中止にも関与

 これに反発し、抗議デモを主催したのが強硬派団体「イスラム擁護戦線」(FPI)。12年には、米人気歌手のレディー・ガガさんについて「悪魔の教義をもたらす」などと主張して実力行使をちらつかせ、インドネシア公演を中止に追い込んだ“実績”がある。

 米CNNテレビによると、4日のデモにあたって警察当局は、平和的な方法で抗議するよう事前に要請。市民にはソーシャルメディアの「挑発的な情報」に惑わされないよう呼び掛けていたという。

 だが、参加者の一部が暴徒化し、鎮圧に当たった治安部隊と合わせて約250人が負傷。一部の店舗では略奪も起きた。

 翌5日未明、ジョコ氏は「政治関係者がデモを悪用している」との声明を発表した。

 一方で、国家警察は7日にバスキ氏を聴取した上で、発言が「宗教冒涜(ぼうとく)罪」に該当するとの見方を強めた。立件を目指す方針とされ、身柄は拘束していないものの、海外渡航を禁じたという。

高い手腕、民主主義を体現

 地元メディアは、同国のイスラム教徒の大半は穏健派で、FPIに同調する人は少ないとしている。華人でキリスト教徒という理由で、バスキ氏の知事就任に抗議したのもFPIだったためだ。

 むしろ、バスキ氏は副知事時代から、汚職撲滅や交通・環境問題などで手腕が評価されてきた。「政党政治家というより高級官僚」「反腐敗に取り組み、直言する政治家として認められている」。英BBC放送の人物評だ。

 知事に就任した14年、バスキ氏は米紙ニューヨーク・タイムズに「私たち一族は中国の子孫だが、母国はインドネシアだ。『もし他国に占領されたら、独立のために最前線で戦う』と父は言っている」と強調。ロイター通信には「近いうちに、非イスラム教徒や華人がリーダー、あるいは大統領になれる日が来るだろう」と語っていた。

 世界宗教者平和会議(WCRP)の杉野恭一・副事務総長は、産経新聞の取材に「インドネシアはイスラム教徒が多数派の国の中で、最も少数派が保護されている。今回のデモは、一部の不寛容なイスラム至上主義者が起こしたものだ」と指摘。その上で、バスキ氏について「中国系、キリスト教徒、遠隔の島の出身ということで、3つの少数派としての象徴的な地位をもっており、インドネシアの民主主義を体現している」と話している。

http://www.sankei.com/west/news/161120/wst1611200005-n1.html

http://www.sankei.com/images/news/161120/wst1611200005-p2.jpg
11月7日、インドネシア警察で事情聴取を受けたジャカルタ特別州のバスキ・プルナマ知事。少数派の華人でキリスト教徒の同氏が、イスラム教を侮辱する発言をしたとして、抗議デモが起きる事態となった(AP)