【サッカー】プレミアで切磋琢磨する吉田麻也の現在地 「ひとつひとつ積み重ねていくしかない」


 11月のW杯予選が終わり、日本代表の吉田麻也も英国に戻ってきた。その吉田が、所属先のサウサンプトンで存在感を高めている。

 チーム内の序列は、昨季と同じ「CBの3番手」で変わらないが、今季は動きの鋭さが増した。目立ったミスもなく好パフォーマンスを維持しており、フランス人のクロード・ピュエル監督をして「麻也は自信を深め、質の高いプレーを見せている」。落ちついたプレーで最終ラインの安定に貢献し、定位置取りにアピールしているのだ。

 現時点で吉田の主戦場は、欧州リーグとリーグ杯の2大会。チームの優先順位が高いプレミアリーグでは控えの扱いだが、欧州リーグとリーグ杯では全試合で先発している。欧州リーグは4試合・2失点(2勝1敗1分)、リーグ杯も2試合・無失点(2勝)と、目に見える結果も残した。

 なかでも、吉田のパフォーマンスが際立っていたのが、欧州リーグのインテル戦だ。

 敵地で行われた第1戦では、イタリア代表のエデルやアルゼンチン代表のマウロ・イカルディなど速さのあるアタッカーを上手に抑えた。とくに、試合を中継した英テレビ局『BTスポーツ』が手放しで褒めていたのが、カウンターアタックを受けた前半のワンシーン。チーム全体が前がかりになっている状況で、インテルがカウンター攻撃を仕掛けた。

 縦パスから前線へ飛び出したのがエデル。敵陣にいた吉田は追いかける立場になったが、エデルを離さず追走し、最後は足を伸ばしてクロスをブロックした。先述の『BTスポーツ』では、「良いプレー。吉田の速さが光った」と称賛されていた。

 「スピードが弱点だった」と吉田が認めるように、昨シーズンの序盤なら追いついているかどうか微妙な場面だった。しかし、先を走るエデルとの距離を縮め、最後は突破を食い止めた。吉田のスピードが、改善されてきたことを物語るシーンだった。

 もちろん、偶発的に速さを身に付けたわけではない。岡崎慎司の専属コーチを務める杉本龍勇氏(法政大学教授)とスピード改善に取り組み、「やっと光が見えてきたかな」(吉田)と言う。たしかに昨季と比べると、トップスピードに乗るまでの動き方、走り方がスムーズになった。

 本拠地セントメアリーズ・スタジアムで行われた第2戦でも、CFのイカルディの突破をブロックしたり、クロアチア代表MFのイバン・ペリシッチの切り返しに素早く反応したりと、安定感のあるディフェンスで最終ラインを支え続けた。

 となると、焦点は「レギュラーCBの壁をいかに乗り超えていくか」。吉田がポジションを争うのは、今夏の移籍市場でマンチェスター・Uが獲得に動いたポルトガル代表CBのジョゼ・フォンテと、そのユナイテッドやリバプールが触手を伸ばしているとされるオランダ代表CBのフィルジル・ファン・ダイク。プレミアリーグを代表するCBがライバルになる。

 簡単なタスクではないことを吉田も自覚しており、「結果を出したい一心で。勝つことと、ゼロに抑えることが、一番、目に見える結果。分かりやすい判断材料になる」と力を込める。さらに、こう続ける。「毎週が勝負。1試合で満足しないでやっていき、監督の信頼を勝ち取らないといけない」

■ 味方へのコーチングもCBの仕事のひとつ

 その吉田も、英国南部に位置するサウサンプトンで在籍5季目を迎えた。入団会見を英語でこなしたように、加入時で語学をすでに習得していたが、今では頭で考えるよりも先に、自然と英語が口から出るようになったという。顔なじみのクラブ関係者やスタッフも増え、「古株になってきたので、新加入の選手にいろいろ(クラブのことを)聞かれる。なんか違和感ありますね」と笑う。

 こうした優れた語学力を生かし、ピッチ上では最終ラインから味方に指示を飛ばしている。「(CBは)コーチングしないといけないポジション。いかに味方を動かすか。コーチングしなければ、結局、自分に返ってくるんで。やらないと生き残っていけない」と語気を強める。


 「昨季終盤は(出番が)まったくノーチャンスだった。移籍するかなと、自分でも思っていた」と振り返る昨季を経て、今季は吉田の風向きが変わり始めた。調子の良さを買われ、代表戦直前のプレミアリーグ11節ハル戦でも、右SBとして先発出場を果たした。

 それでも、英国に戻ってくれば、再び過酷な競争の中に身を置くことになる。「ひとつひとつ積み重ねていくしかない──」。呪文のように唱えている言葉のその先に、レギュラーの座が待っていると、吉田は信じている。


http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161119-00010015-abema-socc