【韓国/コラム】陰の実力者による国政介入事件が、「キル・ライム」と「薄毛」でしか人々の記憶に残らなくなった[11/20]


 困ったことになった。これほどまでになった「陰の実力者」による韓国の国政への介入という重大な事件が、「キル・ライム」と「薄毛」でしか人々の記憶に残らなくなった。

 朴槿恵(パク・クンヘ)大統領が、就任前の2011年、チャウム医院を何度か訪れて診療を受けた際に、ドラマ『シークレット・ガーデン』の女性主人公「キル・ライム」の名前を使ったという一件が話題を集めた。

 女優ハ・ジウォンが演じたキル・ライムは、幼いころに消防官だった父を事故で亡くし、困難な中でスタントウーマンの夢を育んでいくという強靭(きょうじん)な主人公。2010年晩秋に放送が始まって翌年1月まで続いたこのドラマは、視聴率35%以上を記録するほど人気を集めた。

 大統領が「キル・ライム」を名乗ったところを見ると、このドラマの熱烈なファンだったようだ。

 「崔順実(チェ・スンシル)氏国政介入」事件は、権力の頂点にある大統領が、重大な国事を、その資格のない女性に依存して決定したという点で衝撃を与えた。演説文にせよ人事にせよ、適切な専門家と議論していたなら、大統領がこれほどの窮地に陥ることはなかっただろう。

 今回のスキャンダルが肌で感じられるのは、入試不正、プラセンタ(胎盤エキス)の注射、「泥のスプーン」、服・バッグのように大衆の感性を刺激する生活密着型のニュースが降り注ぎ、公憤を呼んだからだ。

 秘密資金事件や兵器導入不正、BBK事件(投資顧問会社による株価不正操作事件)のような、歴代政権の不正もしくは疑惑を理解するには少なからぬ時間と努力を要するが、今回のスキャンダルは聞いているだけで好奇心が刺激され、青筋が立つほど強い吸引力を持っている。

 それが、政府と企業システムを駄目にした「崔順実氏国政介入」事件の本質を掘り下げる上で障害になった。

 PSYやイ・ヒョリのミュージックビデオを撮り、広告界では非常に有名というチャ・ウンテク氏が文化界の黒幕として登場したことも、スキャンダルが「軟派」になる上で一働きした。大統領の「陰の実力者」崔順実氏の手足となって、自分の子分を政府のあちこちに配置し、利権あさりに忙しかったチャ・ウンテク氏の行動は恥知らずなものだった。

 ところが数日前、裁判所に出頭する際に薄毛だということが判明し、犯罪行為に対する批判は弱まって事件全体が戯画化された。

 チャ・ウンテク氏は、自分のおじを大統領府の教育文化首席に、恩師を文化体育観光部(省に相当)の長官に据えただけに威勢があり、「実力者」として振る舞っていたことは明らかだ。しかし、チャ・ウンテク氏を「文化界の皇太子」と呼んだことが穏当だったかどうかは分からない。

 「崔順実氏一党」の行動隊長に当たるチャ・ウンテク氏は、一時的に文化界を「遊び場」にして放蕩(ほうとう)していたにすぎない。文化芸術界の人々はチャ氏のことを、この分野を代表するほどの人物とは認めていないようだ。

 崔順実事件と関連して芸能人の名前を挙げ、 無責任な暴露が続いていることも、焦点をぼやけさせている。国会議員が、具体的な根拠も出さずに「誰々は崔順実と関連がある」「特別待遇を受けた」と根拠のあやふやな話を乱発し、「悔しかったら告訴しろ」というような形で出してくる様子は、目も当てられない。

 毎日あふれ出てくる「特ダネ」を確認するのも精神的にきついが、「情報」という名の下に、誰彼構わぬ「チラシ」(芸能界のゴシップやうわさなどを載せた私設情報誌)まで大手を振ってまかり通るというのは、文字通り公害だ。

 光復(日本の植民地支配からの解放)後に産業化と民主化を達成し、成功の歴史を歩んできた韓国において、大統領の陰の実力者による権力への介入は、乗り越えるべき障害の一つだ。プライバシーをほじくるゴシップに目を奪われず、今回の事件を、国家と指導者の品格を省察するきっかけにしなければならない。

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金基哲(キム・ギチョル)文化部長

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